抵抗

“小さな抵抗こそが希望になる”というテーマで不定期に記事を書いています。

教育内部効率性に関する指標

 

この記事では教育統計指標の中で、内部効率性に関する指標を解説する。内部効率性とは教育を受けることをインプット、卒業してからの課程をアウトプットとして考える。そして最小のインプットで最大のアウトプットを出すことが一番効率的であると考えられる。この教育システム内の効率性を内部効率性というのに対し、教育過程を修了した卒業生が社会経済的にいかにアウトプットを出すかという概念を外部効率性という。以下で内部効率性に関する基本的な指標を紹介する。

 

留年率

定義:ある年度のある学年に所属する生徒数から、翌年も進級せずに同じ学年に留まっている生徒の割合。

公式:(t+1)年のi年生の留年者数/t年のi年生の在学者数×100

 

留年率は内部効率性を測る上では重要な指標となる。同じ生徒に同じことを繰り返し教えるということは教育システム上非効率であり、留年率は0%に近づくほどよい。留年率を測るためには2年間にわたる生徒のフローのデータが必要となるため、データ入手の際には確認が必要となる。留年率が高い理由として一般的には、授業のレベルが高く学生が理解できていないことや、教員の質の問題が考えられる。また国によっては、日本もそうだが、自動進級制度を設けている国もある。自動進級制度は内部効率性の観点から言えば有効な政策ではあるが、生徒の理解度をしっかりと確保しない限り、形だけで中身の伴わないシステムになってしまう。

 

退学率

定義:ある年度のある学年に所属する生徒数から、翌年は進級も留年もせずに学校を辞めてしまう生徒の割合。

公式:(t+1)年のi年生の退学者数/t年のi年生の在籍者数×100

 

退学率は連続した2年分の生徒数、留年者数のデータを入手することができればその差が必然的に退学者数となるため、たいていは留年率を計算する際に同時に計算することができる。当然ながら数値は低い方が良い。退学には学年途中での退学、学年修了時点で落第したため留年をせずに退学、また同じく学年終了時に進級する資格は得たがさまざまな事情でやむをえず退学するケースがある。本来はこれらは異なる性質のものであるが、多くの途上国では退学に関してこのような厳密な分類がされていない。途上国で一般的に見られる生徒の退学は、主に貧困の問題が背景にあると言われている。しかし、イエメンのケースを例に挙げると、落第した場合、男子児童は留年することが多いのに対し、女児児童は退学するケースが多い。1992年にWhiteがインドで行なった質的調査では、男児は将来の稼ぎ頭として見なされているのに対し、女児は将来の負担だと捉えられていることを報告している。留年は内部効率性の観点から見ると、効率的ではないがそれでも教育を受ける機会が与えられているのに対し、退学をしてしまうと、再度就学する教育ことは非常に困難となる。

 

進級率

定義:ある年度のある学年に所属する生徒数から、翌年はその上の学年に進級する生徒の割合。

公式:(t+1)年の(i+1)年生の進級者数/t年のi年生の在籍者数×100

 

去年度1年生に100人の在籍者がいた場合、数人は留年し、数人は退学し、残りは進級する。つまり、進学率と退学率、留年率を足し合わせると100%になる。また学校や県レベルの進級率等を計算する場合、転校生の存在も確認すべきである。転校生の有無によっては必ずしも100%とはならない点に留意すべきである。

 

進学率

定義:ある年度のある学年に所属する生徒数から、翌年はその次の教育課程に進学する生徒の割合。

公式:(t+1)年の(i+1)レベル1年生への進級者数/t年のiレベル最終学年年生の卒業者数

 

進学率はシステム間の進級率と理解することができ、例えば、初等学校から中等学校への進学ということである。国によっては初等教育の最後に学習到着理解度を測るテストがあり、それにパスしない限り次のステップには進学することができない。また初等教育修了時点で修了証明証が発行され、初等教育資格が認定されるとそこで教育を終えてしまう児童も多くいるため、進学率は他の学年の進級率と比べ低くなることがある。また進路はいくつかある場合にも注意が必要だ。例えば中等教育を終えた生徒は大学進学や就職以外にも職業訓練校や短大へ進学する可能性がある。当然ながら、進学率の内訳として、大学、短大、職業訓練学校の各学校への進学を明確にすると、その国や県の進学パターンをより深く理解することができる。

 

残存率

定義:ある教育課程において、ある年に1年次に入学したコーホートのうち上の各学年へ進級する割合。

公式:同じコーホーとから最終的に卒業までたどり着いた生徒数/1年生に同時に入学した同じコーホートに所属する生徒数×100

 

残存率は多くの国で初等教育の1年生に入学した子どもが初等教育の規定学年に修了できないため、1年生に入学した児童のおよそ何%が退学せずに教育システムに残っているかを見ることにある。進級率が各学年間の移動を見るのに対し、残存率はシステム全体を見ることが多い。計算の仕方は、まず、1,000人の学生が1年生に入学したと仮定する。もし1年生から2年生への進学率が90%であれば、2年目、2年生に進級した生徒数は900人である。2年生から3年生の進級率が同じだとすると、3年目3年生に進級するのは810人である。また留年率が各学年5%だと仮定すると、2年目に1年生に残るのは50人で、3年目はそこから90%が進級するため、3年目に2年生にいるのは45人でと45人で90人となる。そして仮に退学率が5%だとすると、50人が1年目を終えた時点で退学し、2年目の2年生からは45人、1年生に留年したものの中からは3人が退学する。このようにして、最終的に何人が卒業するのかを算出するのである。

 

この算出にはいくつかの仮定が必要だ。まず、当初入学したコーホートは進級、退学、留年の3つのうちいずれかの進路のみに進むため、システム外へ流出、もしくはシステム外からの転入というものがないと仮定される。2つ目は、進級率や退学率が何年目においても一定であると仮定されていることだ。3つ目は、この手法においては、計算上同学年を何度も留年することができる。4つ目に、このコーホートにいる全員がシステムを終了するまで、すべての率は変化しないということが仮定されている。

 

卒業生あたりの就業年数

定義:生徒がある教育課程を修了するために平均的に必要とする年数を留年、退学といった非効率性を考慮して計算したもの。

公式:規定年数+j年間の留年生のために費やされた総生徒年/規定年数j年間の留年生を含んだ期間の卒業生数

 

この指標からは、現在のシステム下で、一定数の卒業生を生み出すのに必要な資源投入と留年や退学のないシステム下で同数の卒業生を生み出すのに必要な資源投入とを比較することにより、その資源の効率性がわかるというものである。一言で言えば、非効率がいくらあるのかを考える指標なのである。本来6年制の小学校は生徒全員が6年間で終了するのが理想だが、実際は留年者が多く出る学校では卒業するのに7年や8年といった時間を要する。例えば就業年数が7年になると1年分余計に人件費がかかり資源が非効率であると言える。当たり前だが、規定の就学学年に数値が近ければ近いほどシステムの効率がよいと考えられる。この指標の注意点としては、早期に下の学年で退学したケースの方が上の学年で退学したケースよりも投入が少ないため、より効率的だと計算されてしまうことである。

 

効率性係数

定義:卒業するための理想的な就学年数を実際の平均的な就学年数に対する割合として表したもの

公式:理想の就学年数/実際の平均的な就学年数

 

例えば規定就学年数が5年間である初等教育課程で、もし平均的な就学年数が10年だったとすると、1人の生徒に本来費やすべき時間や費用の2倍を生徒側も学校側も費やしいていることになる。この場合本来の効率性の2倍の出資をしているので、効率性係数は50%ということになる。留年や退学が多くなれば多くなるほど、1人の卒業生を輩出するのに余分な労力がかかっていることなり、効率性係数は下がる。留年率と退学率のどちらが大きく非効率性に影響を与えているかという点に関しては、留年者は卒業時期がズレても卒業する可能性は残っている。一方で退学者は卒業する可能性がなくなる。したがって、卒業生を何人生み出すかということを基準にすれば、非効率性が高いのは当然退学者が多い時である。

 

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