抵抗

“小さな抵抗こそが希望になる”というテーマで不定期に記事を書いています。

教育の質に関する指標

 

本記事では教育の質に関する基本的な指標を解説する。

 

生徒教員比率

定義:ある年度のある教育課程における教員一人当たりの平均的な生徒数。

公式:生徒数 i/教員数i

 

この指標は多くの場合教育の質の指標と捉えられているが、場合によっては公共支出の効率性の指標としてとらえられることもある。一人あたりの教員が抱える生徒数が極端に多ければ、生徒一人当たりに割ける時間や注意が少なくなり生徒の理解度の把握が下がるという問題がある。この生徒教員比率がとりわけ高いのが途上国の初等教育である。また一方で、効率性の指標という概念は逆に生徒教員比率の非常に低い国で使われる傾向がある。例えばある国の初等教育の生徒教員比率が20名であったとする。これは1人の教員が平均20名の生徒しか受け持っていないことになり、例えば40人いた場合、教員が2人必要になる。教員数が増えるということはそれだけ給料に支出する割合が増えることになり、結果として資金の非効率な利用ととらえられる。つまり、教育の質を向上させるために教員数を増やすことは、教育財政とのキャパシティとのトレードオフである。

 

レベル別の比較をする場合に注意すべきなのが、初等教育とその他のレベルでは教員配置のシステムが異なっている場合が多いということである。初等教育の場合、クラス担任制を採用しているケースが多く、1人の教員がすべての教科を教えている。しかし中等教育以上になると教科担当制に切り替わり、一つのクラスを科目ごとに複数の教員が担当することになる。よって必然的に必要とされる教員数が増え、初等教育よりも、生徒教員比率が低くなるケースが多い。

 

クラスサイズ

定義:ある年度のある教育課程における1学級当たりの平均的な生徒数。

公式:生徒数i/学級数i

 

クラスサイズが大きくなるということは1学級の在籍生徒数が増えることであり、あまりに生徒数が多すぎると教室内での混乱や、教員の注目が届かなかったりとこう行くの質が低下すると考えられている。しかし、生徒教員比率と同様に、これは効率性とのトレードオフでもある。クラスサイズを小さくすればそれだけ同じ生徒に対する学級数が増えるため、教員の数を増やさなくてはならなくなるし、二部制にするか教室を増やすなどの方法で場所の確保もしなければならなくなる。

 

有資格教員割合

定義:ある教育課程において、全教員に対する有資格教員数の割合。

公式:有資格教員数/全教員数×100

 

日本は教員試験があり、基本的にはそれに合格しないと教員になることができないが、途上国の多くのケースでは高校卒業程度の学歴でも教員になれる場合がある。インドの農村部では、初等教育で教育を終えた大人が教員になっているケースもある。特に就学率の低い途上国の国では大学卒業以上の学歴を持っている人がほとんどいないため、高校卒業の資格でさえ、高学歴になるためである。しかし、高校卒業の学歴では正規の教員養成学校を出ていないため、無資格教員として登録されることも多い。つまり有資格教員が多いということは、きちんと教員としての訓練を受けた、もしくは大学卒業以上の学歴を有し、しっかりとした学術的な知識があることを意味している。

 

教育の質を向上させるために有資格教員の割合を増やせばいいというのは正論であるが、必ずしも有資格教員を増やす政策だけが全てではない。というのも、無資格教員は有資格教員とは異なる給与体系によって給与が支払われていることが多い。つまり、教育計画を行なっている側の観点からみると、無資格教員は低い人件費で教員を調達できるための有効な手段である場合もある。教員の質を見る場合、有資格教員の割合のみに着目するのではなく、有資格とはどのような基準なのか、経験により無資格教員が有資格教員となることはできるのかなどを必ず確認してから、分析を進めるようにしたい。

 

年間授業時間

定義:ある学年において、一年間に生徒が学習する時間

公式:なし

 

UNESCOの研究によると授業時間が生徒の学習達成度に大きく影響していることが示されている。世界銀行のレポートによると、初等教育において適切な授業時間は850時間から1000時間と報告されており、UNESCOもこの数値を採用している。UNESCOの世界120カ国程度を対象にした研究によると、世界平均で1年生は689時間、6年生で819時間、9年生で908時間となっている。この分析において重要なのは、予定授業時間と実際の授業時間はたいていの場合異なっている点である。これは学校が様々な理由で閉鎖されたり、教員の欠席やストライキなどの理由で必ずしも予定通りの授業時間数が消化されていない場合が多々あるためである。また、カリキュラム上の授業時間はたいてい1コマ45分や50分など、必ずしも60分授業を一コマとしていないため、たとえ週30時間という風に記載があっても実時間でいうと23時間くらいしかない場合もあり、1コマ何時間なのかを確認しておく必要がある。

 

また資金の効率性と教育の質のトレードオフとして議論に上がるのは二部制、三部制の学校において、授業時間が少なくなることである。二部制にする理由は国によって異なるが、多くは生徒に見合うだけの学校数が足りていないため、全生徒に教育を与えるために、やむをえず二部制にするケースである。この制度についてここでは議論しない。

 

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