抵抗

“小さな抵抗こそが希望になる”というテーマで不定期に記事を書いています。

不文律

 

 待ち構えてみる花火、もちろん結構だが、この季節乗り合わせた列車の窓の闇にふと大輪の花火が咲いてくれるのはもっといい。列車はたちまち通り過ぎふたたび窓にきれいな花火をみることはない。目じりに残った光の粉をいつくしみながら旅を続ける。ひと夏にそんな経験を重ねると幸運という言葉が身近なものに感じられてくる。

 遠花火を好んでいる。あるとき神宮の森の打ち上げ花火を見ようと、とあるホテルの屋上のラウンジに座っていたら、森のはるかかなた、関東平野を一つのたなごころとすればその真ん中辺のくぼみにあたるあたりから小さく小さく花火が、上がっているのに気づいた。神宮の花火は眼前を錦にいろどり闇が戻るとはるかな空に遠花火が音もなく幻のように咲くのであった。

 有名な両国川開きの大花火は1733年に始まった。その前年、イナゴが大発生して西日本の稲作はダウン、さらに悪疫が流行して死者が続出した。そのショックを乗り越え、失意を希望に変えるべく、江戸市民は実費で大花火打ち上げのイベントを立ち上げたのだという。私たちの花火好きは江戸以来つちかわれてきたものらしい。

 今年は一度しか花火を見ることができなかったが、来年もまたこの時期に期待したい。