抵抗

“小さな抵抗こそが希望になる”というテーマで不定期に記事を書いています。

教育統計指標解説

 

本記事では教育統計指標について、それがどのように計算・使用され、その指標はどのような意味を持つのか基礎的な部分を解説を含め紹介していきたい。以下で紹介する指標は、世界銀行やUNESCO、OECDなどでもよく使用される指標であるため、知っておくとその国の教育問題をより解明に浮かび上がらせることができるだろう。なおここでの指標はUNESCOの定義・公式を使用する。

 

粗就学率

定義:ある特定の教育過程において、年齢に関係なくその教育過程に属している生徒数の、その教育過程に属すべき公式年齢の人口に対する割合。

公式:対象学年就学者数/当該年度学齢人口×100

 

この指標は人口に対してどのくらいの子どもが学校に行っているかを簡単に示すことができる。国によって学齢人口の定義等が若干異なる点には留意が必要だ。年度が暦年と異なる場合、例えば学齢人口は2006年と表記されているのに対し、就学人口は2005/06年就学者数や2006/07年就学者数として表記されていることが多い。OECDやUNESCOが共同で作成しているデータ収集マニュアルには、基本的には1月1日時点での人口データを使うとあるが、実際途上国においては、明確な出生日がわからないことが多く、1月1日のデータといっても正確なものは存在しない。よって一般的には2005/06年度であれば、エンドイヤーの2006年人口を使うことが多いようであるが、スタートイヤーである2005年の人口を使っている国もある。

 

二つ目の留意点として、人口統計で国勢調査などをそのまま使う場合、5歳、10歳、15歳といったきりのいい年齢の人口が極端に突出している場合がある。

 

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ネパール2011年人口ピラミット

n(n+1)

i=1ni2
n(n+1)(2n

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インドネシア2000年人口ピラミット

 

 

 

ネパールの2011年人口ピラミット、インドネシア2000年人口ピラミットでは”きりのいい年齢”の人口が顕著に高くなっている。出生登録などの発達していない途上国では大まかに区切りのいい5歳、10歳などと申告するケースが多々あるためである。これにより、学年別就業率ではある特定の学年のみが極端に就業率が低いなどのイレギュラーなケースが起こりうるため、その場合は前後3歳の平均値を使うというようにならす作業 が事前に必要となる。

 

粗就学率は基本的には高い方がよい。しかし、これは分母には年齢指定がなされているが、分子の生徒数にはそれがないため、本来12歳の子が通うべき学年に13歳や15歳の子が通っている場合もカウントされ、粗就学率は100%を超えるということもありうるのである。

 

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こちらのグラフは2015年時点におけるコスタリカ初等教育の粗就学率である。数値が安定的に100%を超えていることがわかる。安定的に超えている理由としては、多くの児童が何度も留年をするなどして初等教育のシステム内に年齢の高い児童が留まっている可能性が考えられる。粗就学率が100%を超えた場合、こういったマイナスの要素が存在する可能性も検討する必要がある。またグラフの推移をみると、1985年以降、グラフは上昇を始め、1998/99年に顕著に上がっている。このような著しい伸びにはなんらかの国の政策や情勢が背景にある可能性が示唆される。例えば、マラウィのケースでは、1994年に初等教育が無償化されたためにそれまで学校に行けなかった子どもが一斉に就学し、粗入学率は93年の89%から134%に一気に上昇した。これは授業料が原因でこれまで教育の機会がなかった子どもに対し、教育の機会を与えたということで肯定的に見ることができるケースである。

 

純就学率

定義:ある特定の教育課程において、その教育過程に属すべき公式年齢に属する生徒数の、その教育課程に属すべき公式年齢人口に対する割合。

公式:対象年齢の就学者数/当該年度学齢人口×100

 

粗就学率に比べ100%を超えることがなく、高ければ高いほどよいという非常にわかりやすい指標がこの純就学率である。この指標に関する注意点としては、データの入手が困難であるということだ。通常どの国でも生徒数を記録する調査や生徒の登録がなされたりしているが、必ずしもそれらの記録に各生徒の年齢までは記録しておらず、そういった場合、純就学率を計算することができない。また申告された年齢に関する情報の信ぴょう性も必ずしも高いとは言えない。

 

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2015年時点で世界全体の初等教育の純就学率は90%に達していない。現在は2019年であるため、現時点では90%を達成している可能性は考えられるが、あくまで世界全体で見たときである。国別に見ると、得られるデータに限界はあるが、アフリカのナイジェリアでは2010年時点で64%、インドでは2013年時点で93%、オーストラリアでは97%であった。(School enrollment, primary (% net) | Data)

 

年齢別就学率

公式:就業年齢にかかわらず、特定の年齢における就学人口の、その年齢の総人口に対する割合。

公式:当該年齢の就学者数/特定の年齢人口×100

 

この指標を一言で言えば、各年齢の人口のうち何パーセントが就学しているのかを見る指標である。どの学年に就学しているかは関係ない。この指標は特に児童婚が多い国や子どもがある年齢になると労働を強いられるコミュニティーなどで何歳ぐらいの子が退学しやすいかを発見することができる。また初等教育の1年生になるべき年齢が6歳なのに6歳の年齢別就学率が50%の場合6歳児の半数はスタート時点から遅れをとっており、6歳から全ての子どもが学校に行けるように改善する必要があると理解することができる。

 

例えば中東諸国では、思春期を迎えた女性児童は学校に行かせてもらえないというケースが多々あるが、生涯識字力の習得に必要であると目安にされている初等教育5年次終了をすべての子どもに提供するということが国家目標である場合は、必ず6歳の時点で1年生に入学させないと、多くの女子児童が5年生に達する前に思春期を迎えドロップアウトせざるをえなくなるケースが生まれてくる。

 

粗入学率

定義:生徒の年齢に関わらず初等教育一年生に新たに入学した生徒数の、初等教育一年次に就学すべき公式人口に対する割合。

公式初等教育1年生入学者数/初等教育1年生になるべく公式年齢人口×100

 

粗入学率とは初等教育入学者すべての人数を1年生に入るべき公式年齢人口で割ったもので、本来予測されるべき人口に対し、何%の生徒が入学したかを見ることができる指標である。粗入学率は年齢に関わらず、全新入生を、対応する公式就学年齢人口で割ったものである。様々な理由で6歳時点で学校に行けなかった歳上の子どもが入学してくる場合があり、粗就学率同様、100%を超えるケースがある。

 

純入学率

定義初等教育一年生の公式年齢で初等教育一年生に新たに入学した生徒数の、初等教育一年次に就学すべき公式年齢の人口に対する割合。

公式初等教育1年生入学者数のうち公式年齢人口/初等教育一年生になるべく公式年齢人口×100

 

純入学率は粗入学率の公式の分子となる新規入学者を、分母と同じ年齢のみに絞り込んだものである。よって100%は超えない。留意点として、規定の年齢よりも若くして入学したものが留年し、規定年齢で再び1年生に在籍している場合、本来純入学率には含まれないが、データの取り方によっては含んでしまっている場合もある。

 

学年別就学率

定義:ある特定の学年において、就業生徒の年齢にかかわらず就学している全生徒数の、その学年に所属すべき公式年齢の人口に対する割合。

公式:対応する学年の非留年者数/特定の年齢人口×100

 

この指標はUNESCOにもOECDの教育統計ハンドブックにおいても記載されていない。したがって、学年別就学率の分子にその学齢人口に対応する学年の全生徒の割合を使うか、非留年者数のみを使うか、しばしば解釈の分かれる場合がある。また、前述の粗入学率は学年別就学率の初等教育1年生と同じと考えることができるため、学年別就学率の全学年分を計算すると、自ずと粗就学率も計算される。当然、その学年の就学者数のみでなく、留年者数も必要なので、データを入手可能であるかは事前に調べておかなければならない。

 

初等教育終了率

定義:その年に初等教育の最終学年を修了した生徒のその最終学年に対応する年齢人口に対する割合。

公式: t 年における卒業生数/t年の最終学年対応年齢人口×100

 

この指標はただ学校に在学しているということだけでなく、しっかりとその課程で学びび最終学年を終了することにフォーカスを置いた指標である。基本的な考え方は、その課程の1年生に入学した者の何%が最終学年を修了したかということであるが、厳密なデータの入手は困難な場合が多い。また、生徒の登録や学校調査などは基本年に一度しか行われないため、年度始めにそれが行われるとそのうち何人が修了したかが記録されない。次年度のデータでは、進級した生徒は修了したことを証明できるが、退学した児童においては、修了してから退学したのか、修了できぬまま退学したのかは不明である。データの入手が比較的容易であることがアドバンテージであるが、実際の卒業生の

人数を使用した修了率とは若干のズレが生じてしまう。

 

 

教育統計学 基礎編―「万人のための教育」に向けた理論と実践的ツール

教育統計学 基礎編―「万人のための教育」に向けた理論と実践的ツール

 

 

本稿はこちらの本をメインに解説させていただいた。

 

次回は教育の内部効率性に関する指標を取り扱う。