抵抗

“小さな抵抗こそが希望になる”というテーマで不定期に記事を書いています。

disinhibit

 

英国人作家の本の書評で引用された”disinhibition"という言葉がわからなかった。大英和を引いてもしっくりくる説明がない。あれこれ考え、「抑制解除」という訳語を考えたところで、これが重要な概念であることに気づいた。
 第二次安倍政権発足後、関係者の下劣な言動が政権基盤を揺るがすのではなく、逆に大衆的な反応と共鳴しているのに驚いたが、今、それが「抑制解除」であると思い至った。動物はそれぞれの種の生態に応じた抑制をもち、自らの存続と秩序を守っている。人間も、獲得した言語に基づく礼儀や慣習を、秩序の基盤としてきた。
 しかし、今や長い歴史の中で形成された礼儀や慣習を、首相や大統領が一代のうちに破り捨て、対立する政治家を侮辱する発言で選挙に勝とうという卑劣が常態化している。面倒な抑制を無視する蛮行に快感を覚えて、人類の発展の基盤を掘り崩しているのだ。
 日本では韓国に対する行き過ぎた侮辱が、出版や放送の品位を穢している。米国では大統領からゴーサインをもらったと考える者たちが、人類差別などの歪んだ憎しみを爆発させている。
 指導者が示す手本が、文化の洗練も歴史の積み重ねもぶち壊す時代になった。規制を解除して、なんでもありの野蛮な欲望を解放しているのだ。あとに残るのは野蛮だけである。
 それがもたらす終末的な惨状を回避するためには、これまで文明を発展させてきた抑制に実効性を与えてきた力は何なのかを理解し、それを回復するしかない。

 

f:id:ogrenci:20200523232216j:image